330ccが156ccになる

1月23日水曜日
 6回目の照射の前に尿が膀胱に規定通りたまっているかどうか、のチェックがあった。膀胱炎の痛みはなぜか、5回目の昨日も出現せず、この日もなかった。あれはなんだったのか。ともかく、いつも通り、45分前に300ミリリットルの水を飲む。その30分後に看護師さんから別の部屋に連れて行かれ、膀胱に超音波の機械を当てて「貯水量」を測るのだ。ドアを開けるとシングルベッドが一つ。ベッドサイドにローションやティッシュペーパーがおいてある。なんかなあ、こんな部屋、みたことあるなあ、その昔(笑)。
 で、パンツを下ろされ、「根元」近くをその測定器でグリグリされる。女性ホルモン漬けのおっちゃんには何の興奮もないが、違う病気だったら、反応しそうな感じですな。
 それはともかく、計測すると「156ccあります。あすからも、こんな感じで、このまま続けてくださいね」。30代だろうか、美人看護師さんがグリグリしながら教えてくれる。「300飲んだのに溜まっているのは156ですか。あとは体に染みこんでいるのかな」とアホなことを聞く僕。「そうですね、いろんなところに水は必要です。ですから水を朝からあまり飲んでいないと、いくら300飲んでも足りない人が出てきます」。そういうものか。超音波のためのゼリーというかローション(笑)を丁寧に拭いてもらい、陽子線照射室へ。
 きのうはいったいどれぐらい照射しているのか、勘定しているうちにウトウトして失敗。きょうこそ、と思って数えたが90秒程度だった。そういえば、きょう技師さんに僕の「ボーラス」を見せてもらった。なんと、そのカバー以外にも、発射口の中に組み込まれている黒い板状のものも、僕の前立腺の形通りにくり抜かれていた。
 「意外と大きいですよね」と技師さん。「多少はマージンをとっていますが」。とはいえ、横から見た形でボーラスは8センチぐらいはあった。日本地図でいえば、長野県のようなシルエットかなあ。こうして一人一人に合うカバーを作り、毎回、照射口につけているのだ。
 それにしても、毎日、毎日、新しい患者と会う。看護師さんが、僕が初日に受けたのと同じ説明をしているので新患だということが分かる。今日の人は若かった。昨日の人は僕と同じぐらい。みんな前立腺ガンのようだ。PSA検査が普及して、こうして増えていくのだろう。昔なら手遅れになっていたガンを早く見つけられて治療できる。医学はすごいなあ、と思う。

膀胱炎のような感じ

1月21日月曜日
 陽子線センターは月曜日に必ず、医師の診察と体重測定がある。この日は81.9キロと1キロ減っていた。酒を完全にやめているせいかもしれない。診察はいつも部長医師が担当するようだ。
「変わりありませんか。膀胱炎などの副作用が出る人もいます。大丈夫ですか?」とO部長。「はい、何も変わりません。大丈夫です」と僕。陽子線待合室で看護師さんにも聞かれて同じ答えをした。すると「そうですよねえ、まだ4回目だものねえ」。笑顔で応じた。
 ところがである。その4回目の照射を終えて1時間もすると、膀胱に異変が出てきた。ぐっと押されるような違和感。これは紛れもなく、膀胱炎だ。この感覚は尿道結石持ちだから分かる。やはり、膀胱が弱い僕にはてきめんに来るのだ。うーん、この違和感。「何かあれば医師か看護師に伝えてくださいね。薬を出します」と言っていた部長の顔が浮かぶ。明日まで待てないなあ、この違和感。手持ちの薬でなんとかしよう。
 ブスコパンが薬箱にあった。胃や膀胱のけいれんをとりつつ、痛みを抑えてくれるはず。薬剤師ではないから確かではないが、とりあえず飲む。次第に収まってきた。よし、これで明日の午後の照射まで持たせよう。だめならまだ何錠かある。
 まだ4回目でこれだ。残り17回。どんどんひどくなるのか。また新たな不安の種が出てきた。

照射位置は慎重に決める

2019年1月18日金曜日
 3度目の照射にはいつもより30分早く到着した。きのうが飛び込みだったので余裕を持って周囲を観察する目的もある。入室カードを持参している人しか入れない陽子線センター待合室には朝早くから照射を待つ人たちがいる。おおむね推定70歳以上の老人だが、40代ぐらいの筋肉質の男性もいる。僕もガン患者としては若い方かもしれないが、僕よりさらに一回りは若く見える。何のガンなのか分からないが、頑張って欲しい。バックパック姿だったのでアクティブに動いているのだろう。
 照射室ではどのみちズボンを脱いで脱衣かごに放り込むので、待合室にスマホとアップルウォッチをつけたまま、財布も尻のポケットに入れたまま座っていた。スマホを見ていると看護師さんがやってきて「あ、スマホとかダメですよ。壊れちゃいます」。
 当たり前の話だが、陽子線はいくら横たわった患者に集中するとはいえ、部屋中を飛び回る。電子機器は壊れ、カードは磁気がおかしくなるそうだ。
 順番が来た。きょうは技師さんが2人とも女性。紙パンツを少し下ろされた。照準の十文字をマジックでなぞってくれた。こんなおっさんのふやけた体は見たくないだろうに。気の毒だ。
 3回目は右側照射。仰向けになるとまず、体の左側にX線撮影用の野球のベースのような形のハコが天井から下りてくる。これで体内に埋めた純金製のマーカーを確認して位置を決める。モーターで台座を微調整させている。
 調整は誤差1ミリで行う。廊下に張ってある陽子線照射の説明には3ミリずれるとどの程度、照射量が変わるか、がとても難しい表現で書かれている。それにしても、なんでこんな難しい説明を張るのだろうか。読むのは患者とその関係者だということが分からないのだろうか。こういうところに理科系の人たちの神経のなさが出る。
 文句はともあれ、調整のために3回ほど台座が動いた。マイクでかわいらしい声で「位置が決まりました」。このあと、陽子線が出てくる場所に「ボーラス」と呼ばれるプラスチック製の直方体様のものをかぶせる。これは僕の前立腺をかたどっていて、ぴったりと照射できるようになっているのだ。照射は毎日、左右が変わるから、ボーラスも左用、右用とある。
さあ、加速器の音がウイーンとして、きょうも照射が始まった。次回は、いったい何分照射しているのか、数えてみる。きょうの感覚ではざっと2分ほどか。何も感覚はない。台に寝ているので眠くなる。「では、次は月曜日に」。笑顔で送り出された。
 あと18回。何の副作用もなければいいが。とにかく膀胱と尿道が弱いのだ。尿管結石の石がまだ6、7個、左腎臓にある。1つがかなり下りてきていて、数週間前に結構痛みがあった。こいつが同時に悪さをするとどちらの痛みなのか、分からなくなる。とにかく今は石よ、おとなしくしていてくれ。

照射2日目は左側

2019年1月17日
尿のたまり具合が悪かった初回を受けて、きょうは330ミリリットルを45分前に飲んだ。ちょうど病院に向かう途中の車の中で飲む形になる。運転しながら信号待ちの際に飲むのだが、結構、しんどい。なかなか330ミリは飲めないよ。
病院の到着がぎりぎりになった。きょうも固定照射室に入る。膀胱の中にしっかりたまっているかどうか、ゼリーを膀胱の外側に塗り、超音波で看護師さんが測る。「大丈夫ですね」と声を出すと、両脇の技師さんたちがうなずく。後の手順は初日と同じ。違うのは、きょうは左からの照射なので頭の向きが昨日と反対。ガントレーの向きは同じなので人間側の左右を入れ替えるしかない。
用意ができた。照射のために技師さんが遮蔽板というか放射線が当たらない部屋に行く。だが、ちっとも始まらない。加速器の音もしない。数分の後、「では行きます」の声。ここの陽子線センターはガントリー照射室が2つ、固定照射室が1つ。同時に患者が3人入れるメリットがある。もちろん、陽子線を発生させる加速器は1つしかないから、順番に当てていくのだが、時間の短縮になる。おそらく、僕の前に他の人が治療を受けていたのだろう。こういうこともあるんだなあ、と思い台を下りる。
看護師さんから前夜のトイレの回数を聞かれる。毎日聞かれるので昼夜と記録しておかないといけない。きのうはすっかり記録するのを忘れ、8回と書いておいた。きょうからスマホにつける。
昨日に比べて15分前に30ミリリットル多い水を飲んだせいか、すぐにトイレにいった。気持ちよいぐらいたくさん出た。おー、腎臓が働いているんだ、と実感する。
あすからはもっと早く、時間に余裕を持って来よう。この日の会計は再診料7円。7円なんて初めて見た。

体の中はどうなっているのだろう

2019年1月16日水曜日
 きょう、いよいよ21回照射の初回を迎えた。この日は車検に出した車の取り出しなどがあり、休みを取った。最初だから妻にも同行してもらった。H医師による半分激励のような簡単な診察のあと、看護師さんによる説明があった。妻も同席してこれからのことを聞く。まず禁煙、禁酒。たばこはもうやめて10年以上経つからよいが、禁酒は痛い。つらそう。「要はやけどのようなものです。アルコールは炎症を悪化させる可能性がありますから」とT看護師。日常の過ごし方、風呂に入るときにゴシゴシこすって洗ってはいけない、などいくつかの注意点を教えてもらう。とくにハッとするものはない。
 身長、体重を測る。167センチ、82.9キロ。ホルモン治療を始める前から比べると5キロ増えた。この治療が終わったらパーソナルジムにいって10キロはやせると誓う(笑)。いや、マジで。
 照射30分前、300ミリリットルの水を飲んだ。この日のためにヴォルヴィックの330ミリリットルのペットボトルを24本購入した。そのうちの1本を30ミリリットル抜いて持参してきた。あとでわかるのだが、この300ミリリットルはそう厳密でなくてもよさそうだ。
 陽子線センターの入り口で技師の男性が名前を呼ぶ。陽子線とはいえ放射線だ。管理区域に入るためのIDカードを渡され、これから毎回、ドアを開けるためにタッチパネルにカードをかざす。出るときも。技師さんの後を歩き、更衣室へ。上半身はボタンダウンのシャツのまま。下半身は紙パンツに履き替えてズボンをはき、更衣室を出る。
 こちらですよ、と技師さんを追うと通路はクランク状に左に右に曲がっていた。「放射線ですから少しでも被曝を防ぐ意味合いもあります」と説明され、いまから体に入れていくのは放射線なのだなあ、と思い知る。
 ここの陽子線センターには3つの部屋がある。国内初のスポットスキャニング照射ができるガントリー照射室1、肺や肝臓への二重散乱体照射をするガントリー室2、そして二重散乱体照射かつ水平方向への照射が可能な固定照射室だ。前立腺ガンの照射はこの固定照射室で行う。

 固定照射室はかなり広い。教室一つ分はある。そこにレントゲン室と同じような台があり、ズボンだけを脱いで仰向けになる。前に作ってもらったそれぞれの患者オリジナルの固定具を装着される。小さな輪っかとナースコールボタンを渡される。輪っかはCTスキャンなどと同じように胸の前に両手で持つ、いわば手すり。「なにかあればボタンを押してください」と技師さん。「これから前回入れた純金のマーカーの位置を確認します」。レントゲンで位置を確認するのだという。
 腹に書いてもらった照準となる線はすぐに薄くなる。何度か妻に書き足してもらったがぐにゃぐにゃになってしまい、しまいに消えていた。「大丈夫でしょうか」と技師さんに聞くと「問題ありません。どうせいまからしっかり、再度、目標を決めますから」と言われ安堵する。
 ターゲットを確認していよいよ照射が始まる。一番奥にある加速器の音なのか、隣の部屋のガントリーの音かはよくわからないが、ぐーんと回転する音に変わり、加速器が回っていると実感する。
 そういえば、てっきり、照射は腹の上からするのだと思っていたので脇腹方向から照射することに結構驚いた。初回のきょうは右側から。あすは左側から、と交互に21回だ。
 照射は1分か2分程度。何の痛みもなく、終わった。技師さんによると、一日25、6人に照射するという。着替えてから尿の流量を測定する。30分前に飲んだばかりで尿意はないのだが検査用のトイレで無理矢理出す。出てきた数値を看護師さんに渡すと「あれ、あまり出ていないですねえ」。僕は「いや、だからしたくないっていいましたよねえ。出ないです」と訴えた。看護師さんによると30分経てば膀胱にたまるので勢いよく出るはずなのだと。明日はだから45分前に水を飲むことになった。
 こうして初日の照射が終わった。前立腺ガンの陽子線治療は前にも書いたけれど、昨年4月から保険適用になった。160万円の3割負担、48万円。会社から高額医療の限度額適用認定証をあらかじめもらってきたのでこの日の支払いは260,208円。カードで一括払いお願いします、と払ったが高い治療費だ。妻が「一桁間違っているんじゃないかと思った」というほどだ。
 これでガン保険で給付されるのは10万円。会社から幾ばくかの補助が出てほとんどチャラにはなりそうだが、まったくガン保険は馬鹿にせずに見直すべきだった。

CTスキャンで最終チェックだ

2018年12月26日水曜日
 この日の指示は、CTスキャンでシミュレーションをするので、スキャンの30分前に300ミリリットルの水を飲んでためておく、というもの。この30分というのは個人的に微妙で、車の運転中に飲まないといけない。前回も書いたかもしれないが、コンビニで300ミリリットルの飲みものは意外と探せない。

 400、500はあるのだが。この日は400ミリリットルの温かいお茶を購入。「本当は水がよいのですが」というが、きょうはまあ、シミュレーションだし、とお茶で代用。信号待ちで100CC程度を残して、一気に飲んで病院に向かった。
 到着するとすぐにCTスキャンの部屋に通され、例の紙パンツに着替える。技師さんに照射の十字線が消えかかっています。書いてもらえますか」というと「テープですね。貼っておきます。これは照射が始まれば毎日確認しますが、それまではご自宅で注視しておいてくださいね」と話しながら、横っ腹の十字を張り直してくれた。
 先日、作ったプラスチックの型を足と腹に乗せて固定する。CTは動いているのか、よく分からない。もちろん、ドーナッツ型の部分は体をスキャンしていったが、もっと磁力が効いて音がするはずだ。技師さんに聞かなかったが、用具とかがしっかり固定できるのかどうか、を確認したのではないか。金額も2500円ぐらいと安かったから。
 1月はいよいよ本番。禁酒、できるかな。「ま、本人の自己責任で」と言っていたH医師。生検の後すぐに「飲んでも大丈夫ですよ」と言っていたN医師。うーん、宴会もすでに3つ、入っている。どうするか。照射を一度してから考えよう。

陽子線照射位置を決める

2018年12月19日水曜日
 きょうは先日入れた金属マーカーがしっかりと固定されているのか、をMRIで確認するのと、陽子線照射の際、体を固定するための型を取る作業をした。まず、固定器具の型どりだ。下着を紙パンツに履き替えてレントゲンの台の上に仰向けになる。結構な温度の特殊プラスチック板をお腹の上に乗せ、体の線に沿って固まり、温度が下がるのを待つ。
 「ちょっと熱いかもしれません」と放射線技師に言われたのでどれだけ熱いのかとぎくっとしたが、体感的には45度ぐらいだろうか。風呂ではちょっと熱いかも、という感じ。
 これが終わると照射のターゲットになる十字線を体に貼り付ける。一見して塗ったような感じだが、幅5ミリほどのうすいテープでヘソの上と横っ腹に合計3箇所。「ゴシゴシ洗うと取れてしまいます。この位置は陽子線治療が終わるまで、変わりません。薄くなったらマジックで塗ってください」と技師さん。
 「ただし、塗るのは自分ではなく、奥様にやってもらってください」とのこと。まあ、妻でなくてもよいのだが、他人に、という意味。自分ではまっすぐな線が引けないから、他人に定規を使って引いてもらえ、ということだ。
 この型どり作業はざっと30分ほど。技師さんと雑談しながらだったが「経皮的放射線金属マーカー留置術がとても痛かった」と話したところ、「あまりの痛さに卒倒して倒れた方がいたそうですよ」と教えてくれた。何度も書くが、「生検より楽」という話はやはり、ないのだ。
 ちなみに、この陽子線治療の際に履く紙パンツ、とてもきつい。女性用をはいている(履いたことはないが、ぱつんぱつん)感じだ。
 先日の手術がうまくいったのか、レントゲン、MRIで撮影した画像を見せてもらった。



 まず、スペースOAR。Aは前立腺、Bは直腸、Cが膀胱だ。AとB間にある白い部分にハイドロゲルを入れて直腸にあたる陽子線量を少しでも減らす、というものだ。
 ちなみに膀胱(C)は白い。300ミリリットルの尿がたまっている。陽子線を照射する際、膀胱や直腸にどれぐらいの尿やガス、便があるかで、前立腺の位置が微妙に変わる可能性がある。そこで照射前はまず、トイレに行き、おしっこをした後、水を一定量飲み、照射する。この日からおならをためない錠剤と便通をよくする顆粒の薬をもらった。便通は日頃からよいと伝えたが「まあ、飲んでください。あまりに下痢になるようでしたらやめてもらって結構ですが、われわれとしては下痢の方がむしろありがたい」とH医師。うーん、そういうものか。


この赤い○の中にある2つの白い物体が純金のマーカーだ。蛇腹のような感じらしい。
次回は一週間後。最終チェックだ。これが終わるといよいよ、照射になる。

ぐったりの夜

12月14日金曜日
 留置術が終わったあと、会陰部と肛門を覆うようなテープを貼ってもらっていた。出血があると下着などを汚してしまうからだ。だが、幸いに血はでなかった。その後の止血剤の点滴はY病院と同じでオレンジ色のおしっこが出る。血は肉眼では混じっていない。右手の点滴の針は不快だがあと少しの辛抱だ。
 夕飯はご飯が150グラムもある。だが、空腹だったために完食。ダメ男ぶりを発揮した。途中、点滴のチューブに血液が逆流すること2回、そのたびに看護師さんが直してくれる。amazon primeの映画を見てウトウトしながら過ごす。病院内は半袖でもよい温度。長袖、長ズボンを持ってきたことを後悔しつつ、いつのまにか寝ていた。
 朝、6時過ぎ。最後の抗生剤の点滴が終わる。N2医師が病室に顔を出し、変わりがないことを確認。会計を済ませて帰宅の途についた。12万7980円。くー、高い。この手術って生命保険から出るのかな。調べないと。次回は来週。照射の際に体を固定する器具の型を取る。照射まであと一カ月だ。

めちゃくちゃ、痛いじゃないか!

2018年12月14日金曜日その2
 13日午後2時過ぎに処置室に入った僕に、陽子線科治療部のベテラン、O医師が説明にきてくれた。生検の時、キシロカインの注射が痛かったと伝えると「点滴の中に少しウトウトするような薬剤を入れて緩和することもできますが、どうしますか」と問いかけてきた。薬剤名を失念したが、聞けば完全に痛みを取り除くわけではなく、ウトウトしている分、痛みに集中しなくなるとのこと。そんなもんなら、いらんわ、と思い「どうせ、10秒ぐらいでしょう。我慢しよう」と心の中で決め、いきなりキシロカインの注射で始めることを伝えた。
 砕石位を取らされたまま、股の内側にある板が外に広がり、大股開きとなる。腹の上で仕切られたカーテンが恐怖を増幅する。それを感じたのか看護師さんから「いきなり、何かを始めることはしません。いきますよ、と話しますから」と不安を和らげてくれる。とはいえ、いまならまだ間に合う。「やっぱり、眠くなる薬、点滴に入れてください」。この言葉を何度も飲み込んだ。「ガンの治療にきてるんだから。我慢しろよ」と心の声。
 看護師さんは仕事とはいえ気の毒だ。60間際のおっさんのいちもつが目の前。「陰嚢を持ち上げてテープで留めます」カーテン越しに声がかかる。肛門と陰嚢は少し離れているのになあ、と思ったが、後で分かる。針を刺すのは生検のように肛門の中ではなかった。会陰部なのだ。
 用意が整うと、医師がカーテンのこちら側に来て「では、これから始めますね」。どうやらH医師ではない。生検の時もそうだったが、必ずしも主治医がやるわけではない。かなり若い医師でのちに病室にきてくれて判明した。N2(Y病院にもN医師がいるのでこう呼ぶとする)さんは大学卒業して5年目。経験がモノをいう世界では、ひよっこではある。「お手柔らかに」と頭を下げた。
 生検の時のようにまず肛門に指が入ってくる。続いて器具が挿入される。生検ではこのオプティガンがグイッと深く入るのだが、今回は違う。器具の挿入で圧迫感は少ない。「注射行きます」とN2医師。ブスリ。痛いではないか。いや、まあ、これは想定内。だが、結構痛い。想像以上に痛い。
 O医師に術前に聞いていたのだが、キシロカインは1%溶液が20ミリリットル入る。「20ミってめちゃくちゃ多いですよね」「そうですねえ」という会話を思い出しながら、この痛みに耐える。

ちなみに 普通の注射器はせいぜい3ミリリットル。ネットから転載した写真だが、これでいうと上3本のうちの右端の量。これは10秒では入らない。場所も1カ所ではなく、方向を変えながら薬剤が入る。とにかく痛い。「歯を食いしばらないで。目を閉じないで、腕に力を入れないで」。隣の看護師さんが語りかけるが「そりゃ無理でしょ」と答える。口をやや開けて腕の力を抜いているとなぜだか笑えてきた。看護師さんが「その笑いの意味は?」と聞くので「もう、好きにして、という感じです。痛すぎる」。
 だが、本当の痛みは先にあった。金属マーカーがどのようなものか、実物を見せてもらわなかったのはうかつだったが太さ0.5ミリ、長さ5-10ミリ程度のようだ。こいつを専用の機器に入れて、肛門に差し込んだままの器具から超音波で臓器の位置を確認し、会陰部からグサリと刺して入れていく。肛門の挿入が生検に比べて深くないのは、こうした事情らしい。
 もちろん、麻酔は効いているのだろうが、こいつが痛い。あーっと声が出る。たぶん30秒から1分ぐらいかもしれないが、痛すぎる。これを2度繰り返す。息も絶え絶えになったところで、最後にspace OARなるもののの挿入だ。これは前立腺と直腸の間にスペースを空け「照射される直腸体積の減少と陽子線の吸収線量の低減」(説明文から)を目的にしている。要するに高線量の陽子線が直腸にあたるダメージを少なくするために入れるゲル状のもの。これも、プローブを肛門の中に残したまま、針を会陰部に刺して入れていく。数カ月で体内に溶けていき、なくなるので人体に影響はないという。だが、痛い。くーっと声を出して耐える。
 終わりました、の声がなかなか聞こえない。うーんとうなっていると突然便意を催す。「うんちがしたいかもしれませんが、便意だけです。浣腸をしているので実際には出ませんし我慢すれば治まりますから」と隣の看護師さん。要するにスペースOARが直腸を刺激するのだ。すぐにでもトイレに行きたい。でも我慢せよ、と。うなっていると「終わりましたよ」とN2医師の声。確かに5分もすれば便意は治まっていく。長い留置術が終わった。看護師さんが「陰嚢のテープ剥がすね。これも痛いよ」。ビリビリ…。こんなもの、留置術の痛みに比べれば蚊に刺されたようなものだ。
 時計をみると午後3時5分。手術開始が2時27分だったので所要時間40分。どれぐらい痛かったか、という5段階で答えるアンケートのような紙をもらった。もちろん、我慢の限界というほどではないが、3(かなり痛い)と4(我慢の限界に近い)の間ぐらいだと答える。少なくとも「生検よりはずっと楽だった、とみなさんおっしゃいますよ」という看護師さんの言葉は受け入れられない。絶対にこちらの方が痛い。生検はY病院だったから一概には比較できないが、どうせ、最初のキシロカインの注射が痛いのなら、もっと濃い液を入れてほしいものだ。もう二度とやりたくない。
 終わるとパンツとズボンをはき、車椅子に乗せられてレントゲン室に寄る。おそらく今の処置が予定通りか、画像で確認するのだろう。何はともあれ、終わった。あとは止血剤と抗生剤の点滴を経て、寝るだけ。全身に力が入っていたのだろう、とても疲れた。そしておなかが空いた。

金属マーカー留置術のために入院。新人君の練習台に

2018年12月14日金曜日
退院して3時間が経過した。まだなんだか、股に違和感がある。陽子線照射の的(まと)を作る「経皮的放射線治療用金属マーカー留置術」などのための1泊入院だった。時間の経過を追って記録してみる。
 13日午前10時に入院手続きを終えて病棟に行く。生検の経験があったため今回も個室をお願いした。トイレが近いことは何にも代えがたい。今回も結果的によかった。身長、体重を測り、ホルモン治療による激太りを再確認。これが終わったら必ずやせると誓う(笑)。洋服を着たまま計測して83キロ。1キロ引いたとして82。ホルモン治療開始前より4.5キロ増。きわめてまずい。
 担当してもうらう看護師さんはK君という男性。新人さんだ。点滴のルート確保は「得意です」と言っていたのに左腕で取れず、おまけに針を刺したところがメチャクチャ痛い。「いててて」と言うと「血も来てくれません。ダメです」と。「オイオイ、ダメですじゃなくて。痛いって」というのをこらえ「あと1回やってダメだったら先輩に代わります」と半ばしょげるK君を励まして右腕に。今度は血管に命中したが点滴の管を差しこむ前に血液がダラリ。実験台だよ、これは。
 点滴は退院直前まで差している。中身はビカーボン輸液(いわば生理食塩水)。手術後に抗生剤やら止血剤を投入するためにつけられているようなものだ(と思う。たぶん、もっと違う意味があるんだろうけど。)
 留置手術は午後2時ごろから。昼ご飯は絶食。前夜に下剤を2錠飲んで朝、出していたが、さらにまた、ここで浣腸をするという。Y病院では「レシカルボン」という座薬で入れると炭酸みたいにしゅわーとなっていきなり、もよおしたが、今回は「イチジク浣腸120ミリリットル」。「使ったこと、ありますか」と聞くので「ありません。これ、Kさんが僕のおしりに突っ込むの?」と聞く。「そうです。これすごい効果早いので、トイレの扉開けて、すぐに入れるようにしてから入れます」。
 ゼリーを塗って手早く尻の穴に挿入。また、この感覚。前立腺ガン治療はいつも尻の中に何かを入れられる。「いきます」の言葉とともに液体が入ってきた。120ミリリットルは結構時間がかかる。いやあ、確かにおなかがヤバい。「高齢の方だと注入中に出しちゃう人もいますから」とK君。終わるやいなや個室のトイレに駆け込んだ。これ、もし大部屋だったらどうするの?トイレで浣腸するのかな。
 そうこうしているうちに時間が来た。生検と同じで看護師さんが車いすを空で押し、僕は自分で歩く。関係者エレベーターに乗り、処置室に向かう。「生検よりは楽だった、とみなさん、おっしゃいますよ」という放射線科外来の看護師さんの言葉を信じて「もう、ここまで来たら痛いのなんのっていってられないなあ」と覚悟する。
 処置室についた。K君といったん、別れ、外来看護師さんに引き渡された。目の前にあるのは、手術台ではなくて、砕石位になるためのいす。あー、これか。とんでもない格好するんだ。
いすの前にはカーテンの仕切り。おなかから下は自分では見えないようになっている。「では、ズボンとパンツを脱いでバスタオルで前を隠して座ってください」と看護師さん。いよいよ、始まる。

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